業界レポート例
物流・宅配・運送業界におけるDX推進レポート
1. 業界概要
前提知識
物流および宅配・運送業界とは、商品や荷物を生産地から消費地へ、または企業から消費者へ効率的に輸送するサービスを提供する産業です。この業界は、経済活動の基盤として重要な役割を果たしており、eコマースの急成長に伴い、その重要性はますます高まっています。
最近の業界動向
物流・宅配・運送業界では、テクノロジーの進化と消費者ニーズの変化により、急速な変革が起きています。
- ラストワンマイル配送の最適化
- 自動化・ロボット化の進展
- サステナビリティへの取り組み強化
- デジタル技術を活用した配送サービスの多様化
- クラウドベースの物流管理システムの普及
業界の主要な課題
物流・宅配・運送業界は、効率化と顧客満足度向上の両立を求められる中、さまざまな課題に直面しています。
- 労働力不足と人件費の上昇
- 配送コストの増加と利益率の低下
- 環境負荷の軽減と持続可能性の確保
2. 業務プロセス分析
物流の宅配・運送における主要業務は以下であると予想されます。 各工程は相互に連携し、効率的な配送サービスを実現するために重要な役割を果たしています。デジタル化により、これらの工程の最適化と統合が進んでいます。
受注管理 | 在庫管理 | ピッキング | 梱包 | 出荷準備 | 配送計画 | 積み込み | 輸送 | 配達 | 配達完了処理 | 返品処理 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
この工程の目的 | 顧客注文の受付と管理 | 商品の在庫状況把握 | 注文商品の取り出し | 商品の保護と準備 | 出荷書類の準備 | 効率的な配送ルート設計 | 車両への荷物積載 | 目的地への移動 | 顧客への商品引渡し | 配達完了の記録 | 返品の処理と在庫戻し |
主要な作業 | 注文情報の入力・確認 | 在庫レベルの監視・補充 | 商品の検索・取り出し | 適切な包装材での梱包 | 送り状・伝票の作成 | ルート最適化・車両割当 | 荷物の仕分け・積み込み | 安全・迅速な運転 | 顧客確認・商品引渡し | 配達状況の更新 | 返品受付・検品・在庫更新 |
3. よくある課題
物流における宅配・運送のよくある課題は以下であると予想されます。 収集済みの情報と組み合わせて確認しましょう。 以下の情報は外部要因(外部企業、競合、業界動向)における課題です。ヒアリング時には、内部要因(自部門や自社)における情報を収集できると精度が上がります。
- 配送効率の低下
- 交通渋滞や非効率なルート設計による配送時間の増加
- 人手不足
- 労働力の確保が困難で、特に繁忙期のスタッフ不足が深刻
- コスト増加
- 燃料費や人件費の上昇による運営コストの増大
- 配達未達の増加
- 受取人不在による再配達の増加と、それに伴う効率低下
- 環境負荷
- 配送車両からのCO2排出による環境への悪影響
- 在庫管理の複雑化
- 多様な商品と在庫拠点の増加による在庫管理の困難
- 顧客期待の高まり
- 即日配送やリアルタイム追跡など、高度なサービスへの要求
- データセキュリティ
- 顧客情報や配送データの管理におけるセキュリティリスク
- 季節変動への対応
- 繁忙期と閑散期の需要変動に対する柔軟な対応の必要性
- 国際物流の複雑性
- 越境eコマースの増加による国際配送の煩雑さ
- ラストワンマイル配送の課題
- 都市部での配送の非効率性と環境への影響
- テクノロジー導入のコスト
- 新技術導入に伴う初期投資と運用コストの負担
4. ありたい姿
物流の宅配・運送におけるありたい姿は以下であると予想されます。 DX推進状況に応じて検討しましょう。DX2.0のありたい姿を定めてそこから逆算してアクションを検討する方法に加えて、DX取り組み状況がまだ始まったばかりの場合はDX1.0としてペーパーレスから検討することもお勧めです。
タイトル | 解決する課題 | 解決されたあとの状態 | DXレベル(参考程度) |
---|---|---|---|
ペーパーレス化とデジタル管理 | 書類管理の煩雑さ、データ入力ミス | 全ての書類がデジタル化され、正確かつ迅速に情報が共有される | DX1.0 |
IoTによる在庫・輸送の可視化 | 在庫管理の複雑化、輸送状況の不透明さ | リアルタイムで在庫と輸送状況が把握でき、効率的な運用が可能になる | DX1.5 |
AIによる需要予測と最適配送 | 配送効率の低下、季節変動への対応 | AIが需要を正確に予測し、最適な配送ルートと人員配置を自動で決定する | DX2.0 |
ブロックチェーンによる透明性確保 | データセキュリティ、国際物流の複雑性 | 全ての取引と輸送プロセスが安全に記録され、関係者間で共有される | DX2.0 |
自動運転・ドローン配送の実現 | 人手不足、ラストワンマイル配送の課題 | 自動運転車両とドローンが人手を補完し、効率的で持続可能な配送を実現する | DX2.0 |
5. DXソリューション
関連するDXソリューションの例を以下に挙げます。 下記の表に上げられるDXソリューションは、物流・宅配・運送業界の効率化と革新を促進するための先進的な技術やシステムです。これらは業務プロセスの最適化から新しいビジネスモデルの創出まで、幅広い効果をもたらす可能性があります。
タイトル | 説明 | 期待効果 | DXレベル(参考程度) |
---|---|---|---|
デジタル文書管理システム | 紙の書類をデジタル化し、クラウド上で管理するシステム | 業務効率化、ペーパーレス化、情報共有の迅速化 | DX1.0 |
IoTセンサーによる在庫管理 | 倉庫内の商品にIoTセンサーを取り付け、リアルタイムで在庫状況を把握 | 在庫の適正化、欠品防止、作業効率の向上 | DX1.5 |
AI配送最適化システム | 交通情報や天候、過去の配送データを分析し、最適な配送ルートを提案 | 配送効率の向上、燃料コストの削減、配達時間の短縮 | DX2.0 |
ブロックチェーン物流プラットフォーム | 取引や輸送プロセスをブロックチェーンで記録し、関係者間で共有 | 透明性の向上、信頼性の確保、国際物流の効率化 | DX2.0 |
自動運転・ドローン配送システム | 自動運転車両やドローンを活用した無人配送システム | 人手不足の解消、24時間配送の実現、配送コストの削減 | DX2.0 |
補足
用語集
- IoT (Internet of Things)
- モノがインターネットにつながり、情報をやり取りする仕組み
- AI (Artificial Intelligence)
- 人工知能。人間の知能を模倣し、学習・推論・判断などを行うコンピューターシステム
- ブロックチェーン
- 分散型台帳技術。データを暗号化し、複数のコンピューターで共有・管理する仕組み
- ラストワンマイル
- 配送の最終区間。配送拠点から顧客までの最後の配達区間を指す
DXレベルとは
革新的なDXの前には、デジタイゼーションと呼ばれるデータ収集やペーパレス化が必要である。DXには大きく3つのステップがあります。
- DX1.0 : 特定業務のIT化を図る段階。具体的には、ペーパーレスやモバイルワークが挙げられる。
- DX1.5 : 全社のIT化・IoT化のフェーズ。工程全体をIoTで「見える化」し、データプラットフォームを構築する段階。
- DX2.0 : 集積したデータとナレッジを利活用して、外販できる新規事業の創出、ひいてはビジネスモデルそのものの変革が可能となる状態。